2015年1月9日金曜日

【学生残酷映画祭×シッチェス】『パトリック 戦慄病棟』レビュー

このレビュー企画も今回で最終回。審査員特別賞である「来年も応募しやがれ賞」を受賞した『神』の平岩監督に、『パトリック 戦慄病棟』のレビューをいただきました。今年も素晴らしい残酷映画がたくさん観られますように。学生残酷映画祭は随時スタッフ募集中です。レンタル開始、ブルーレイ・DVD・デジタル配信リリースは225日より。

学生残酷映画祭2014「来年も応募しやがれ賞」受賞『神』平岩諒一監督によるレビュー

昏睡状態になって超能力が覚醒した青年パトリックが看護師に恋をする話。リチャードフランクリンが監督した「パトリック」のリメイク作品ということで、かなり期待値があがる。作品自体の雰囲気は良く、古典的。話自体は現代風にアレンジされているが、目新しい所は特に無く感じた。また、パトリックの超能力でカエルを食べさせるシーンや、植物状態の患者達を喋らせるシーンが面白く笑ってしまったが、観ていてオッ!となるシーンは無かった。音響で驚かせるシーンが無駄に多く、途中で冷めてしまった。冗談抜きで多い。

学生残酷映画祭実行委員会によるレビュー

ドキュメンタリー『マッド・ムービーズ ~オーストラリア映画大暴走~』のマーク・ハートリー監督によるリメイク版『パトリック』。なんと音楽がピノ・ドナッジオで、古めかしい病棟とカメラワークの奥ゆかしさと相まって往年のサスペンス映画のような香り。と思いきや、テレキネシスを駆使して好きな女にアタックする昏睡粘着男の顛末を、エログロ描写と嫌がらせとしか思えない小細工的な演出満載で描き切る。この男、間違いない。
終始オリジナル版へのマニアックなオマージュを隠し挟み、最後の最後で観客の1%にも伝わらないネタを仕込む辺りにオタクの恐るべきエゴを見た。パーティ映画としての潜在性にも期待。

2015年1月8日木曜日

【学生残酷映画祭×シッチェス】『ボーグマン』レビュー

本日は本家シッチェス映画祭グランプリ受賞のオランダ映画『ボーグマン』。観客賞受賞の吉岡監督より熱のこもったレビューをいただきました!レンタル開始、ブルーレイ・DVD・デジタル配信リリースは225日より。

学生残酷映画祭2014観客賞受賞『チェンソー君!』吉岡光監督によるレビュー

これはオランダ製の『突撃!隣の晩ごはん』だ! ただし、突撃してくるのは質素で怪しいセミロングオヤジ、その名も『ボーグマン』! やつは巨大なしゃもじは持ってない、倫理観も人間性も持ってない、あるのは手提げカバンと得体の知れない計画だけ!
風呂に入れて飯食わせたら、「なかなかですね」とか言って次の家に行くのかと思いきや、なんだかんだと言い訳つけて、ボーグマンは居座り続ける!
この素晴らしい空気の読めなさは、かつて小学校の友達が家に遊びに来て「まだ平気です」とか言って830分くらいまで帰ってくれなかったあの感じとよく似ている。
奥方としては心底消え失せて欲しいのだが、ボーグマンの態度が嫌に丁寧なので追い払おうにも追い払えない。「クッソォ、旦那に気が付かれる前にこのオヤジどうにかしなくちゃ」と思っていた奥方だったが、いつのまにやら「アラ、ヤダ。あたしボーグマンの存在に安らぎを感じるようになっていたみたい」とまるで少女マンガのような心変わりを始めてしまう!!!そして、いよいよこのオランダ製『突撃!隣の晩ごはん』は旦那も子供も家政婦もその彼氏も巻き込んで放送禁止レベルをはるかに上回る悪夢になだれ込んで行くのだ!
一体何がどうなって誰が何者なのかは、あなたが、その目で見て、その頭で考えてくれ! 多分一回見ただけじゃよく解らない!
そして、お願いだから、俺ん家来るな!『ボーグマン』!

学生残酷映画祭実行委員会によるレビュー


 謎の男ボーグマンを迎え入れたことで、裕福な一家の日常が崩壊してゆく様を、ブラックユーモアたっぷりに描く。ボーグマンとは何者か。上下逆さまで現れるタイトル、エセ聖書のエピグラフ、聖職者や杭、地底からの登場…と冒頭の時点でボーグマンが神の教えに背く邪悪な存在であることがじゅうぶんに示唆される。アンチクライスト?悪魔?宇宙人?吸血鬼?インキュバス?アルプ?あるいは、それら全ての総体のような存在?ブルジョワ夫人がホームレスのような身なりのボーグマンに惹かれていくという転倒は邪悪な遊び心に満ちている。オランダ、ベルギー、デンマークの合作でもあり、オランダの友人によればボーグマン含む数名の口調はオランダ語ではなくフラマン語に聞こえるとのこと。

2015年1月7日水曜日

【学生残酷映画祭×シッチェス】『ゾンビ・リミット』レビュー

 本日は、HIGH-BURN VIDEO賞受賞の高瀬監督による『ゾンビ・リミット』のレビューです。ゾンビ映画もまだまだ可能性を秘めていると思います。レンタル開始、ブルーレイ・DVD・デジタル配信リリースは2月4日より。

 

学生残酷映画祭2014 HIGH-BURN VIDEO賞受賞『RAPE KILLER』高瀬夢監督によるレビュー

ゾンビ映画はゾンビだけに腐る程ある。アクションからコメディまで、様々なジャンルで映画化されてきたが、それでも一年に一度は新生ゾンビ映画が誕生する。『ゾンビリミット』もその一つと言えるだろう。原題『THE RETURNED』(帰還者)とは劇中で出てくる感染者の総称だ。本作ではワクチンにより、感染を留める事が出来る世界をゾンビドラマとして描いている。最近では『ビフォア・ドーン』が記憶に新しいが、本作のドラマは一筋縄ではいかないストーリー展開になっていて、ホラー、ロマンス、緊張感漂うサスペンスを観ている感覚にもとらわれる。さらに本作では、ウィルスが発症してしまったゾンビの動きを止めるには、首をもぎ取るか、脳みそを破壊するしかない。など割とロメロゾンビしていて嬉しい限りだ。そして、映画ファンなら一度は体験したことのある、ラストを迎える。その余韻は本作を鑑賞し是非もう一度味わってほしいものだ。

学生残酷映画祭実行委員会によるレビュー

ゾンビに噛まれても定期的にある薬物を投与すればセーフという設定の下、タイムリミットが迫る夫婦の愛の戦いを描く。ゾンビの誕生以来続く「ゾンビも人間といえるか」という議論をさらに推し進めて、問題はより線引きの難しい厄介な次元へ。ウィルス以上に強力な「偏見」に感染した人々の中にいても、主人公の行動は他者を無視した職権濫用であり、映画は常に倫理的ジレンマを掲げている。「愛」という最も尊いはずの人間感情にさえ疑問符がつく世界。安易に‟現代社会の映し鏡”とは言わないまでも、完全に娯楽として割り切って観ることができないことに対する不安。

2015年1月6日火曜日

【学生残酷映画祭×シッチェス】『モーガン・ブラザーズ』レビュー

シッチェス・レビュー企画第3弾は、このページを見ている人なら高確率で気に入ると思われる『モーガン・ブラザーズ』。やはり人喰い映画『喰』で会場を沸かせた谷口監督によるレビューです。レンタル開始、ブルーレイ・DVD・デジタル配信リリースは24日より。

学生残酷映画祭2014上映作『喰』谷口藍監督によるレビュー

モーガン弟のレジの鈍臭さに笑い、呆れ、応援したくなるしょっぱなからやらかしてくれる。道ばたの事故った車で血を流し気絶している男を"死体"と思いこみ、お家へ持って帰る。どう見ても無人の事故車は怪しいだろうとレジの爪の甘さに突っ込んでしまう。死体を運ぶ最中に、車が故障し立ち往生している三人組のうちの一人、都会の女に一目惚れするレジ。なんてわかりやすいやつなんだ、レジそして彼らをモーガンブラザーズ工場へ連れて行ってしまう。そしてモーガン兄のリンゼイに怒られ、ボコボコにする。私でもそうする。死体取り扱ってんだぞ、何よそ者連れてきてんだ。暴力で従わされるレジ。そんなこんなで人肉をミンチにしてブラザーズはヤバいことに気付いた。生きてる人間の方がカリウム値が高いいい肥料が作れると、はしゃいじゃう三人を肥料にしようとするリンゼイ。兄は怖いが女を守りたい、さあどうするマスをかいてる場合じゃないぞ殺人犯になりきれぬ男を応援してしまう、そんな映画モーガンブラザーズ。 

学生残酷映画祭実行委員会によるレビュー

 南オーストラリアの田舎へ遊びに来た都会人達が人肉製肥料を製造する兄弟に遭遇し…。
 変化球型田舎ホラーにして、思わずほっこりするハートフル・コメディ。スプラッター描写にも抜かりなく、今年のシッチェス6作中トップ級の残酷映画。しかし、何よりもおぞましいのは目を石鹸で洗いたくなるような禁断の濡れ場である。のびのびとしたオーストラリアの田舎の情景と訛りも楽しく、観た後は「モ~ガン・ブラザ~ズ・ギャランティ~♪」と口ずさみたくなる。オープニングの看板も意外と伏線になっているのでお見逃しなく。オズプロイテーション映画再興の動きの中で、今後も刺激的な作品が増えていくことに期待。

2015年1月5日月曜日

【学生残酷映画祭×シッチェス】『トランストリップ』レビュー

 シッチェスレビュー企画第2弾は本場シッチェス映画祭でジュノー・テンプルが主演女優賞を受賞した『トランストリップ』。クレイアニメ作品『ピクニック』の竹内監督によるレビューです。レンタル開始、ブルーレイ・DVD・デジタル配信リリースは225日より。


学生残酷映画祭2014上映作『ピクニック』竹内満衣子監督によるレビュー

主人公アリシア、従姉妹のサラとその友人たちで行くはずだった旅行からサラが離脱してしまい、アリシアは一人で見知らぬサラの友人たちと過ごすことになります。その道中で起こる様々な出来事を通して、アリシアは従姉妹の友人たちに不信感を持ち、精神的に疲弊していきます。
最初から最後まで、なんとなくちょっと嫌だなという気持ちが続く映画です。「これ以上悪い方向に行かないでくれ」と思っている間にもどんどん話が悪い方へ進み、ハラハラしつつも面白く観れました。ぼんやりとした居心地の悪さ、得体の知れない不気味さを体感できる映画です。

学生残酷映画祭実行委員会によるレビュー

 ラテンビート映画祭で特集も組まれたセバスティアン・シルバ監督による愉快な鬱映画。ジュノー・テンプル演じるいたいけなアメリカ娘が、旅行先のチリでの些細なできごとの鬱積や死にゆく動物達の残響(鳥と犬はキー)に苛まれて精神に異常を来していく様子を、静かに神経を逆撫でするような演出を積み重ねて綴っていく。アリシアを置いて途中下車する従姉、やたら催眠術を披露したがるその彼氏、終始PMS状態のその姉、チリかぶれのエセオネエ風マイケル・セラ(!)…と旅の仲間はひたすらウザいが、物語の進展や視点の移行に伴って印象も変わる、万華鏡的な人物描写が興味深い。クリストファー・ドイル(!!)の撮影も手伝って、いくら寝返りを打っても寝つけない夜のような、気持ち悪いのに異常に心地良い手触り。

2015年1月4日日曜日

【学生残酷映画祭×シッチェス】『キョンシー』レビュー

 レビュー企画第1弾は、映画館での上映時もいきなり満席スタートだった『キョンシー』です。『即時型アレルギー反応ヲ惹起セシメル抗原物質』の岡室監督にレビューを執筆していただきました。ブルーレイ仕様も豪華な本作、ぜひその目でご覧ください。レンタル開始、ブルーレイ・DVD・デジタル配信リリースは24日より。


学生残酷映画祭2014上映作『即時型アレルギー反応ヲ惹起セシメル抗原物質』岡室耕司監督による『キョンシー』レビュー

マンション内で起こる不可解な事件をスタイリッシュな映像で綴ったサスペンス調の密室劇。
まずタイトルが良く無い。
キョンシーと言えば、昔世間を風靡したコメディタッチの映画のインパクトが強すぎて、テンテンに金おじいさん、何処か間抜けにぴょこぴょこ跳ねる屍にカンフーアクションを大いに期待してしまうのは私だけでは無いであろう。
次に終盤に向けて物語が見えてくるスタイルを取っているが、逆にそれがストーリーを進め観る上での途方も無くかったるい原因になっており、音楽だけが勝手に盛り上がっていて拍子抜け、カメラや照明が良い仕事をしているが故に実に勿体無い。
そうあればこそクライマックスくらいは…と期待が掛かってしまうのだが、そこは特筆に値する訳でもなく消化不足なまま映画は幕を閉じてしまう。
これはもう映画のCGの見せ処ろを切り張りして何かのPVにした方がいいんじゃないの?
と思わず言いたくなる。
そしてタイトルを死霊の館などにした方が期待を裏切られた感が無くて良い。
最後にこの作品は、霊幻道士のリブート作品との事で制作されたキョンシー映画との事だが、かつていろんな監督が、ロメロのゾンビ映画のリブートに挑戦して結果を残せなかったように、旧キョンシーは絶対なる完成された作品だ。
それだけにリブートは非常に困難を極めただろうが、あえてその無謀に真っ正面から挑戦した姿勢は評価したい。

学生残酷映画祭実行委員会による『キョンシー』レビュー

 おちぶれた俳優が自殺のために越してきた団地で邪霊やキョンシーの脅威に遭遇。霊幻道士を先祖に持つコックと共に戦いに挑むことに。
 80年代の楽しげな『霊幻道士』とは打って変わり、彩度を落とした映像で描かれるシリアスなアクションホラー。邪霊やキョンシーの姿も幽玄さや愛嬌から離れ、Jホラー的な薄気味悪さや機械的な重量感を纏っている。スローモーションを駆使した痛々しい残虐描写も。せ、背骨が…!

かつての『霊幻道士』シリーズ出演者の再結集は、単純なオマージュを越えた意味を持つようにも見える。というのも、元々このシリーズでは、たとえ同じ出演者が出ていても作品ごとに役は変わり、異なる世界が舞台になっている。まるでたくさんのパラレルワールドが存在しているかのよう。本作のラストは様々な解釈が可能だが、このパラレル性を頭に置いて見ると、この題材でこの物語を語ったことへの理解が深まり、主人公の見た世界が一層哀しく美しく響く。

学生残酷映画祭×シッチェス映画祭ファンタスティックセレクション 「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2014」全6作品レビュー企画

 皆様新年あけましておめでとうございます。さて、年明け早々ではありますが、昨年の学生残酷映画祭の上映監督による「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2014」上映作6本のレビュー(+私達実行委員会によるレビュー)を本日より公開させていただきます。年賀状のような気分でレビューを読んでいただき、本編も鑑賞いただければと思う所存でございます。皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。